Quarterfinals: Fujitomo Mikio vs. Takahashi Yuuta

By Takahashi Jyunya


Zoo、高橋優太
高橋優太は関東ローカルエリアの強豪として知られているプレイヤーで、PTQやGPTでは常に優勝候補に挙げられている。また、マジックに対するモチベーションの高さには定評があり、斉藤友晴や栗原伸豪、富田俊太郎、鈴木貴大を筆頭とする池袋組を中心としたコミュニティーで日々切磋琢磨しているようだ。直にPT本戦でも活躍を目にすることが出来ると期待されているプレイヤーである。そして、コントロールプレイヤーとして認識されている彼が今回使用しているデッキは、驚くことに「ZOO」であった。しかし一般的な形とは異なり「関東は青い」の格言に沿って、《ブリキ通りの悪党/Tin Street Hooligan》、《氷結地獄/Cryoclasm》をメインから投入しているという対コントロール専用デッキ。サイドにはクリーチャーデッキも取りこぼさないように《ロクソドンの教主/Loxodon Hierarch》や《狩りの興奮/Thrill of the Hunt》を搭載しており、「トロンとボロスが第一メタ」というだけあってメタゲームに忠実な鋭いデッキに仕上がっている。

対する藤本幹夫は、秋葉原のアメニティードリームを中心に活動しており、千葉のコミュニティーともコネクションを持っている。全国的には無名とは言え、250人を超える大会のトップ8に名乗りを挙げている時点で相当の実力者であるのは間違いない。その藤本が操るのは「scryb and forces」と呼ばれている青緑のテンポデッキ。先日行われたlord of magic championshipにおいても優秀な成績を収めたホットなデッキである。



Game 1
高橋「じゃあ、先攻後攻のダイスロールは小さいほうが選択権で」
一般的にクリーチャーデッキ同士の対戦は先手が有利とされている。つまりダイスロールから勝負は始まっているのである。そして当然のように1を出す高橋。流れやツキを信じない筆者も「ついてるなー」と思ってしまう。しかし、惜しくも2を出した藤本も差を感じさせない。前哨戦は高橋有利か。

そうして貴重な先攻を取った高橋は初手の7枚とにらめっこ。芳しくなかったのか、マリガンを宣言。ここで押さえておきたい事柄が「マリガンの重要性」である。クリーチャーデッキのようにドローサポートが入っていないデッキは序盤のゲームプランを初手に託すことになる。特に「瞬間、最速、最強」をモットーに序盤の3ターンを重要視している「ZOO」においてのマリガンはゲーム中のどのプレイよりも大切である。前置きが長くなったが、6枚に「生まれ変わった」ハンドを見てキープを宣言。高橋は6枚にどんなゲームプランを思い描いたのか。
対する藤本は7枚を見て、小考に入るがキープを宣言。青緑のテンポデッキも「ZOO」と同様に序盤に生命線を賭けているデッキだが、「ZOO」よりも長期的に戦えるためランドの枚数とマナクリーチャーの有無が判断基準とされている。藤本は《ペンデルヘイヴン/Pendelhaven》《ヤヴィマヤの沿岸/Yavimaya Coast》《スクリブのレインジャー/Scryb Ranger》と残りは3マナ以上。後手によるドローに期待を賭けたキープだが、コレが吉と出るか凶とでるか・・・

そしてゲームは始まった。高橋は1ターン目に《巻物の大魔術師/Magus of the Scroll》、2ターン目に《ブリキ通りの悪党/Tin Street Hooligan》、3ターン目に《獣群の呼び声/Call of the Herd》と少々頼りないものの毎ターンアクションを起こしている「及第点」なスタートである。それに対する藤本は2ターン目に《スクリブのレインジャー/Scryb Ranger》で《巻物の大魔術師/Magus of the Scroll》をブロックするものの、土地が止まってしまい《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves》を召還するのみに止まりかなり苦しいスタート。そんな藤本を尻目に《裂け目の稲妻/Rift Bolt》を待機、《ブリキ通りの悪党/Tin Street Hooligan》の2体目を追加して畳みかける高橋。なんとか《獣群の呼び声/Call of the Herd》で盛り返そうとする藤本だが、待機されていた「ちょっと遅い《稲妻/ Lightning》」で焼かれてしまう。そしてゲームの終了を告げる更なる《裂け目の稲妻/Rift Bolt》の待機によって藤本が投了。

藤本 0-1 高橋

scryb and forces、藤本


サイドボーティング
「能動的なカードよりも軽い受動的なカードは強い」
この理論の基に、カウンターカードや軽量除去は何時の世の中でも優秀だという評価を受ける。しかし、逆を言うとつまり「相手の能動的なカードよりも重い受動的なカードは弱い」。当たり前のことだが、相手よりも重いカードで1対1の交換をするのは不利である。しかもカウンターのようなタイミングを選ぶカードならそれがより顕著となる。それを理解している藤本は《神秘の蛇/Mystic Snake》、《差し戻し/Remand》《岩石樹の祈り/Stonewood Invocation》をサイドアウトして、地上の鉄壁《木彫りの女人像/Carven Caryatid》と青の除去である《撤廃/Repeal》をサイドインする。

それに対する高橋は先ほど挙げた対コントロール用のカードをサイドアウトして、《ロクソドンの教主/Loxodon Hierarch》《狩りの興奮/Thrill of the Hunt》を投入というお手本のようなサイドボーディング。ここで一つ特筆しておきたいのがクリーチャーデッキ同士だとライフの損失やその重さを考慮して《黒焦げ/Char》を減らすという事である。火力も除去である。つまり、2マナのクリーチャーを燃やすことも考えるとビートダウンデッキにおいても先ほどの理論は適応される。



Game 2
先ほど不運な事故に見舞われた藤本が先攻を取る。しかし、マジックに事故はつき物。気持ちを切り替えて望んでもらいたいものである。
そんな中、その「不運」に出会わないように入念なシャッフルを繰り返しているのが高橋。まるで祈りをささげるように何度も何度もシャッフルを繰り返す。
友人の青木良輔曰く 「奴はシャッフルすることを生きがいに生きている」 。

ナイスなサイドカード
流石に嘘だと信じたいが、そのことさえ信じてしまいそうになるくらい繰り返されるシャッフル。数えてみたが、1ゲームと2ゲームの間だけで5回。ただ、その執拗なまでの事故を回避しようとする意識が勝利につながることは間違いない。努力は報われる。

先にマリガンを選択した藤本に対して高橋は長考した後にしぶしぶキープ。 このときのハンドについては後で論議の対象となる。

1ゲーム宜しく激しい序盤の凌ぎあいになるかと思われたが、お互いに2ターン目まではノーアクションという異様な立ち上がりをみせる。
ゲームが動き出したのは3ターン目の《ヤヴィマヤのドライアド/Yavimaya Dryad》である。そのドライアドに《裂け目の稲妻/Rift Bolt》で返す高橋に対して襲い掛かるのは《幽体の魔力/Spectral Force》。場に緊張が走る。なんといってもサイズは場に出ているクリーチャーの2倍以上。《獣群の呼び声/Call of the Herd》を表裏でプレイして対抗しようと試みるも、それをあざけわらうように登場する2体目の《幽体の魔力/Spectral Force》・・・
「まだいける!」象トークン3体によるトリプルブロックで場に均衡をもたらそうとする高橋に対して突き刺さる藤本の無情な《心霊破/Psionic Blast》。遥か彼方に飛ばされる象1匹。あれ?残り2匹?
3+3=6
フォースは?
8・・・・・GOOD GAME
そんな藤本のハンドは《木彫りの女人像/Carven Caryatid》3と《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves》。はたして守る必要はあるのかと考えさせられるようなゲーム展開であった。


藤本 1-1 高橋


サイドボーディング

今度は先手を得た高橋は迷わずにサイドボードに落としていた《氷結地獄/Cryoclasm》をメインボードに戻す。後手では弱いものの、先手においては「先手のアドバンテージ」を遺憾なく発揮できる強力なカードである。「ZOO」における効果はゲームを決めるほどで、非常に基本に忠実なサイドボードと言えよう。

レジェンドより採録

Game 3
今回は互いに7枚でキープを宣言。二人とも迷わずにキープしたことからも、デッキの性能をフルに生かしたいいゲームが期待できる。

その期待に応えるかのように1ターン目に飛び出る《サバンナライオン/Savannah lions》。迎え撃つのは《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves》と、互いに最高の展開である。 さりげなく存在する《Pendelhaven / ペンデルヘイヴン》の存在によって様々なゲームプランが見える。
2ターン目、高橋は迷わずに《Lightning Helix / 稲妻のらせん》をエルフに叩き込む。そして視界の開けたライオンが攻撃を開始する。
藤本は 島を置いてターンを返す。

3ターン目、土地の止まってしまった高橋はとりあえずライオンで攻撃するが、《スクリブのレインジャー/Scryb Ranger》によって阻まれてしまう。手札には2枚の《氷結地獄/Cryoclasm》があるのだが、プレイできないため《Kird Ape / 密林の猿人》を展開する。
対する藤本は《獣群の呼び声/Call of the Herd》をプレイして場を有利に作り上げようとするも、「そうはいかない」と像トークンに放たれる高橋の《Lightning Helix / 稲妻のらせん》。しかし、高橋の土地はいまだ2枚。場も《Kird Ape / 密林の猿人》だけなので寂しい。
そのサルも《木彫りの女人像/Carven Caryatid》の登場によって足踏みすることになる。まさに「越えられない壁」と言ったところか。

4ターン目、ついに高橋は待望の3マナ目を手に入れる。そして《繁殖池/Breeding Pool》に《氷結地獄/Cryoclasm》を打ち込む。ゲームの傾きを引き戻せるか?
対する藤本は《繁殖池/Breeding Pool》をタップインで置くに留まる。

場を整理すると、
藤本:《木彫りの女人像》・《ペンデルヘイヴン》・《島》・タップ状態の《繁殖池》
高橋:《密林の猿人》・《聖なる鋳造所》・《Stomping Ground / 踏み鳴らされる地》 ×2

次の第5ターン目に高橋は痛恨のミスを犯す。2枚目の《氷結地獄/Cryoclasm》を《繁殖池/Breeding Pool》にプレイしてしまったのだ。当然狙い澄ましたかのようにプレイされる《スクリブのレインジャー/Scryb Ranger》・・・その能力で手札に帰る《繁殖池/Breeding Pool》。初めは《島/Island》を対象にしようとしていただけに高橋も頭を抱える。
返しのターン、《極楽鳥/Birds of Paradise》をプレイして《スクリブのレインジャー/Scryb Ranger》で攻撃。

気を取り直してプレイする高橋の《獣群の呼び声/Call of the Herd》を《差し戻し/Remand》して、自身2枚目の《獣群の呼び声/Call of the Herd》をプレイする藤本。ここで後手なのに《差し戻し/Remand》をメインボードに戻しているという藤本の奇策が功を奏する。
再びプレイする《獣群の呼び声/Call of the Herd》も《差し戻し/Remand》。せめてもの抵抗と、《裂け目の稲妻/Rift Bolt》を待機する高橋。
それに対して《オーランのバイパー/Ohran Viper》を戦線に追加する藤本。
《オーランのバイパー/Ohran Viper》に《裂け目の稲妻/Rift Bolt》。更に、《ロクソドンの教主/Loxodon Hierarch》を展開して場の均衡を図る高橋。藤本の、《教主》に向けての《心霊破/Psionic Blast》も《狩りの興奮/Thrill of the Hunt》で守りきり、逆転を狙う。
《獣群の呼び声/Call of the Herd》をフラッシュバックしてコツコツと《スクリブのレインジャー/Scryb Ranger》による攻撃を続ける藤本。ライフレースは高橋14の藤本が10。まだ勝負の行方は分からない。

地上は制圧した高橋は《獣群の呼び声/Call of the Herd》をプレイして前線の突破を図る。それに応えるべく《獣群の呼び声/Call of the Herd》をフラッシュバックでプレイして、上空からの攻撃を続ける藤本。ここで、高橋は像トークンに向けて《裂け目の稲妻/Rift Bolt》をプレイするが、筆者の視点から見ると疑問のプレイだった。《スクリブのレインジャー/Scryb Ranger》は「ZOO」では火力で焼くしか止められないカード。地上を突破するには像トークンを処理しなければならないのはよく理解できるのだが、《ペンデルヘイヴン/Pendelhaven》の後援を受けて2点のクロックをかけ始めた《レインジャー》の対処が先ではないか・・・
刺さったら、まさに地獄

ゲームに戻ろう。高橋の《獣群の呼び声/Call of the Herd》のフラッシュバックはまたもや《差し戻し/Remand》。思うように動けない高橋を尻目に、藤本は《木彫りの女人像/Carven Caryatid》の2体目と3体目を立て続けにプレイして地上をシャットアウトする。
大勢はついているもののワンチャンスを求めて耐え続ける高橋だが、《幽体の魔力/Spectral Force》までが場に出てしまうとライフが足りなかった。

圧倒的なる場の制圧力
藤本 2-1 高橋

さて、2本目において論議になったと書いた初手は以下のようなものであった。
《裂け目の稲妻/Rift Bolt》×2・《獣群の呼び声/Call of the Herd》・ランド×4(3色は出る上に森絡みのショックランドもある)。

本人に話を聞くと、「長いゲームプランを想定してのキープだったのだが、《幽体の魔力/Spectral Force》や《木彫りの女人像/Carven Caryatid》による地上の制圧力は想像を遥かに超えるものだった。」ゲーム後の反省会ではキープの是非で論議され、やはりメインボード戦と同じく、序盤のゲームメイクが出来ないとサイド後は不利との判断であった。先手後手、マリガンの是非、クリーチャーのサイズ、サイドボードチェンジ。様々な要素を含んだクリーチャーデッキは状況判断や決断力に左右される。選択肢が少なければ少ないほど簡単なデッキ。だが、基本的には攻撃するしかないデッキが難しいデッキの一つ、ということからも、マジックというゲームの複雑さが伺える。セットランドの前からゲームは始まっているのである。



Result: 藤本 Win! 準決勝進出!!